岐阜県獣医師会開業部会では、ペット動物の繁殖と供給(販売)、交配の周旋、ペットホテル(旅館業)、シャンプーカット(美容)、動物病院専売品以外のフードおよび器具の販売を禁じている。
これらは、開業獣医師の倫理に照らし、厳に慎むべき業務(行為)だと言うのだ。

その理由を考察するに、「神聖な獣医療」を生体や物品販売の具にしてはならないこと、
ひいては関連業者との棲み分けを図り、仲たがいを避けることで、結果的に飼育者市民と動物の利益に資するため、ということか。

小生は、過去20年に亘り、獣医師会組織の中枢に身を置いた。
当初はこの理念に何らの疑問を差しはさむこともなく、先人の教えを有り難く頂きながら、自らその精神の普及に努めた時期もあった。

しかしこの20年の時の流れは、獣医療に対する市民の意識と要求に大きな変化をもたらした。
一言でいえば、欧米化である。
良くも悪くもアメリカナイズされたきた。

つまり、ユリカゴから墓場までというインテグレートな市民ニーズへの対応と同時に、更なるニーズを創り出すことによって、他院との差別化を図るという戦略を展開してきた。
この流れは、わが国の動物病院の過密化に伴い、今やそれぞれが生き残りをかけてマネージメントしているし、関連セミナーは数知れない。

そのような時代に、より高度な獣医療の提供はもちろん、ペットホテルやシャンプーカット、一般フードや用具の販売などは、動物病院における基本的サービスとして位置づけられているし、それを禁じている獣医師会など岐阜県以外に知らない。
そのような崇高な理念を持つ岐阜県獣医師会開業部会の現状はどうかというと、新規開業者の入会拒否が相次ぎ、既存会員における足並みの乱れと退会という事態が生じている。

十年も前になるが、小生が開業部会長を務めていた当時、いち早くこういった情勢の変化に対応すべく、一大改革案を示しその実現に取り組んだが、旧勢力の抵抗によって僅差で断念した。
ところが今になって大慌てしだしたが、既に抜本改革は不可能となり、姑息な規約の手直しに汲汲としている。

獣医師会といえど、単なる規制組織であってはならない。
何かをさせないのではなく、動物病院としての専門性とクオリティーをもって、より適正な対応の在り方を示し、市民の利益と会員のモチベーションに貢献する姿勢が求められている。

小生の敬愛する北海道獣医師会のある会員は、自らトイプイードルの繁殖と供給を手掛けているが、「獣医師だからこそ、最も相応しい仕事ではないか!」と言い切っている。
動物の福祉が叫ばれ、ペットショップやブリーダーのあり方がやり玉に上がっている昨今、獣医師会もただ非難するだけでは何の解決にもならない。
むしろ獣医師が積極的に関与、ないしは主導していくことの方が、市民の信頼確保につながるのではないかと思われる。
実際、動物病院がホームページ上で、自ら繁殖した子犬・子猫を紹介するコーナーが人気を呼び、予約が殺到していると聞く。
我々獣医師の認識は、これほどに市民の期待と乖離したしてしまったのか。

警察や裁判官の中にも犯罪者はいる。
性善説を唱えるつもりはないが、少なくとも高度な国家資格を有する仲間に対し、性悪説を適応することはあまりに寂しくはないか。
そしてそれが、既得権擁護とどこかで結び着いているとすれば、なんと恥ずかしいことだろう。

不易流行!
トップに立つ者は、常に心しなくてはならい。